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『少女は自転車にのって』サウジアラビアで生きる女性たちの日常



「感動した」とか、「心を揺さぶられた」とか、あるいは、「つまらなかった」とか。世の中には、人それぞれの様々な評価がつけられた創作物が数えきれないほどあります。そんな中で、ライティングチームのメンバーがめぐり逢い、どうか一人でも多くの人に届けたいと思った「これは…!」というものを、思い思いのスタイルで紹介していきます。私たちが紹介する創作物との出会いが、多くの人の人生を豊かにすることを願って…



 サウジアラビア映画を観たことはあるだろうか?きっと、機会は多くなかったはずだ。イスラム教国の中でも特に戒律の厳しいサウジアラビアでは、2018年になるまで、公共の場での音楽や映画が禁止されており、映画館も国内になかった。

 

 今回紹介する『少女は自転車にのって』という作品は、そんなサウジアラビアで、初の女性監督であるハイファ・アル=マンスール氏とドイツの製作チームによって、2012年に作られた映画だ。



あらすじ

10歳の少女ワジダは、近所の男の子たちのように、自転車に乗って通学したり、遊んだりしたいと思い、お母さんに自転車をおねだりする。しかし、「自転車に乗ったら妊娠できなくなる」と言われ、買ってもらえない。サウジアラビアにおいて、女性が自転車に乗るということは許されていないのだ。そこでワジダは、ミサンガを作って売ったり、人のお使いをして、自力で買おうと決心するが、自転車を買える程にはなかなか貯まらない。そんな時、コーランの暗唱大会が学校で催されることになり、その優勝賞金で自転車が買えると知ったワジダは、その大会に参加することに決めるが…



 本作は、ハリウッド映画のような大きな出来事は特に起こらない。監督も、「サウジアラビアで、多くの人が毎日様々な経験をしている中の1つを切り取った映画」と話していた。しかし、サウジアラビアの日常を知らない私にとっては異様な光景とも思えるシーンが、劇中の至る所で見受けられた。


 イスラム教の戒律による制約はとりわけ女性に対してのものが多い。因習的な男尊女卑や児童婚、一夫多妻制に苦しむワジダの母親の姿に、あまりの文化の違いを感じ、衝撃を受けた。具体的には、女性は外出時、ブルカという黒い布で顔(目以外)から足まで覆わなければならない。大きな声で笑って男性に声を聞かれてはいけない。学校の昼休みは、死角になるような薄暗い場所で遊ばなければいけない。生理中はコーランを素手で触ってはいけない。他にもムスリム女性を縛る多くの制約が、映画の中に織り込まれていた。こんなに羅列してしまうと、暗鬱な映画なのかと思われてしまうかもしれないが、全くそんなことはない。おてんばなワジダをはじめとする女性たちが、制約を上手にかわしたり、こっそりお洒落を楽しんだりする姿もこの作品では描かれている。前向きで希望を感じられる映画だ。


 しかし、そんな制約がある中で、女性の監督がどうやって撮影したのか。やはり、監督が女性であるがために乗り越えなければならない壁は高い。本作は、実際にサウジアラビアの首都リヤドをロケ地としていて、撮影も現地の慣習や伝統に習って行われている。映画内で描写されているのだが、ムスリムの女性は不特定多数の男性と公の場で一緒に過ごしてはいけない。そのため、屋外での撮影時は、直接撮影を見ることはできず、監督は別室や車内からモニター越しにトランシーバーで助手を通じて指示を出していた。


 本作は2012年に製作された映画であり、監督のハイファ・アル=マンスール氏も、「本作では抑圧される女性を描いているけれど、現実の社会は変わってきている」と話していた。実際、サウジアラビアは近代化改革により、穏健なイスラムへの移行が進んでいる。例えば、女性は自動車の運転が禁止されているため、男性に職場まで送り迎えしてもらわざるを得ないというシーンが劇中にある。だが、現在、制度上では女性も自動車免許証の発行が可能になっている(※)。


 サウジアラビアよりもイスラム教の戒律が厳しいとされるアフガニスタン、特にタリバン政権下の女性の権利について、最近のニュースで見た人も多いだろう。映画を鑑賞することも、様々な文化や社会問題を知るきっかけになるのではないだろうか。




※ 解禁後も…サウジ女性、ハンドル握れぬ理由 車に放火も:朝日新聞デジタル



参考資料


サウジで約35年ぶりに映画館オープン、男女が同席可能に


どうしてイスラーム教はわかりにくいの?危険だと誤解を招く4つの理由




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